AKGのK1000には特別な思い出があります。
発売されたのは1990年だったと思います。その年のステレオサウンドのCOTYに選出されているので、とても鮮烈に覚えています。姿かたちはもちろんだけど、何よりも驚いたのはその価格。当時は今のように数十万円のヘッドホンなんてほとんどなくて、例外的にSONYのMDR-R10があったくらい。せいぜい5万円が最上級のヘッドホンだった時代なんですが、K1000は175000円もしました。
もうちょっと足せばソナスファベールのミニマが買えたわけです。
凄いヘッドホンが出たなと思ったことを覚えています。
インピーダンスは120Ωとほどほどでしたが能率が74dBと非常に低い。でも、これには理由があって、よくよくスペックを見れば74dB/mWと記載があります。つまり1m離れた距離で1W入れたときの音圧という意味ですね。まさかヘッドホンを1m離れた距離から使う人はいないと思いますが、K1000は通常のスピーカと同じ測定方法で計測していたと思われます。
スピーカの音圧は距離が変われば当然変化します。1mで74dBの音圧が出ているなら、距離が50cmになれば6dBあがり、25cmになればさらに6dB上がります。10cmならば20dBあがるという計算になりますので、実際にK1000をダミーヘッドなどで計測すれば、はるかに高い能率をしめすはずです。
それでも、このヘッドホンはパワーアンプやプリメインアンプのスピーカ出力に直接接続して使ってほしいとAKGが推奨していました。簡単なヘッドホンICの場合、印加電圧が低いのでフルスイングしても120ΩのインピーダンスのK1000に十分な電力を供給することができなかったわけです。そんな状況でしたから、ややあって、K1000専用のヘッドホンアンプがAKGからもリリースされました。それくらい当時のアンプ内蔵ヘッドホンアンプでは鳴らすのが難しいヘッドホンだったわけです。
COTYに選ばれたくらいですから、もちろん素晴らしい音だったのだと思います。思いますというのは、実は私はK1000を聴いたことがないのです。興味はもちろんありましたし、それどころか、仕事場でのリファレンス機器にしようと思い、職場で設備として購入してほしいと稟議をあげたほどです。が、当時、175000円のヘッドホンは上司の理解を得られず、当たり前の価格のヘッドホンである同じAKGのK240DFになってしまいました。もちろん、音的にはK240DFも素晴らしいもので、個人でも購入し今でも使っているくらいです。
結局、私にとってAKG K1000とは結婚を申し込んだものの、親の反対にあい結局、結ばれることのなかった高嶺の花そのものだったわけです。
K1000のフィロソフィーを継承するようなヘッドホンは本家のAKGからはついぞリリースされていません。中古市場ではK1000の人気は相変わらず高いようで、今でも10万~20万円くらいで取引されているようです。
私はといえば、ヘッドホンやヘッドホンアンプに並々ならぬ興味はあるものの、AKG K1000をどうこうしようとは思っていませんでした。いや、その存在を忘れていたと言った方が良いでしょう。
では、なぜ今AKG K1000のことを書いているのか?
実はひょんなことから、その正当なる後継機と呼んでも良いLB Acoustics Mysphere3の存在をしったのです。
なぜ後継機なのか?それはMysphere3を開発したのはAKG K1000を開発した設計者その人であることと、その姿形がこれはK1000の進化型に違いないと確信させてくれるデザインであったからです。実際、Mysphere3のホームページをみれば、そこにはMysphere3はAKG K1000をルーツとしていると明記されています。これはもはや、まごうことなき現代版K1000であると言えるでしょう。
わざわざAKGが専用アンプを作ってでも、その音質をユーザーにきちんと届けたかったAKG K1000。その正当なる後継モデルMysphere3はどの程度のモノなのか?
もし私がヘッドホンアンプを商品化していなければ、Mysphere3に興味を持つことはなかったと思いますが、そんな鳴らすのが難しいと言われる絶世の美女をModel2ならば鳴らしきれるのか?
どうしてもそれを試してみたくなりました。
かくして評価用のヘッドホンとしてMysphere3.2(110Ωタイプ)を導入してしまいました。
オリジナルケーブルは短すぎて使い物にならかったので、オヤイデの102SSCリッツ線を使ったケーブルで長尺ものを自作しました。もちろんアンプ側はXLR4端子です。
Mysphere3.2を接続した場合のModel2の最大出力は1W弱となります。対してMysphere3の最大入力はカタログから60mWと読み取れます。スピーカに換算すると耐入力60Wのスピーカに1000Wのパワーアンプを組み合わせることと等価です。
こんな力関係ですから、Mysphere3.2が鳴らないわけがありません。
ぜひ、皆さまにも聴いていただきたい組み合わせです!
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