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Model1Bのアドバンスポイントその2

前回のModel1Bのアドバンスポイントの続きです。


音質的に非常に大きな効果があったのはRIAA偏差を一層少ない偏差としたことです。


もともとModel1では0.1%級の薄膜抵抗と実測して選別したPPSコンデンサをEQ回路に導入していました。Model1のようにCR-NF型で構成した場合、DSオーディオが公開しているCR型に比べて定数の選択肢は大幅に自由度が増します。


そのため、抵抗とコンデンサの組み合わせもまた無数に存在し、その中から最適なものを如何にして見出すかが設計者の腕の見せ所となります。その際に極めて有効なツールとなるのが回路シミュレータです。アドバンスモデルを構築する場合、純粋に音質が向上する選択をするだけではなく、それまでの設計に無駄はなかったか?不要なコストをかけていなかったか?という点を改善することも重要です。Model1ではEQ回路のコンデンサの選別作業がそれにあたります。以前のブログで3割ほどしか良品が取れないと書いたと思いますが、結局、それはこのパーツのコストが単純に三倍になることを意味します。フィルムコンデンサというのは、対容量比でケミコンなどより圧倒的に高価なパーツであり、この選別作業による不良率はかなり問題視していました。


Model1Bのリリースにあたり、このEQ定数にメスを入れるのも当然です。従来、大きな容量を1個のコンデンサで賄っていましたが、Model1Bでは二つのコンデンサに分離しました。それにより、各コンデンサの容量を小さくすることが可能となり、2%級のコンデンサを使えるようになりました。この偏差であれば現実的に無選別で使用することができます。


総合的な容量と抵抗の組み合わせも、シミュレーションを繰り返し、帯域内の偏差が小さくその偏差の中で好ましいと感じるカーブに追い込みました。アンプの帰還抵抗の値ともからみますので、全体のゲイン配分も含めてシミュレーションと実測、そしてヒアリングを一つのルーチンとして一層の最適解を追及しました。その結果、20Hz~20KHzで±0.3dB以内という非常に少ないRIAA偏差を実現することができました。これは、もちろんあるマージンを含んでおり、実測では10Hz~50KHzまで帯域を広げても±0.3dBをキープしています。マージンを無視して仕様の提示はできませんので、控えめに20Hz~20KHzと帯域を狭く提示しています。もちろん、製品は全数RIAA偏差を実測して出荷いたしますので、全モデルが±0.3dB以内のRIAA偏差を確実にキープしています。


MC型やMM型のフォノイコライザーではRIAA偏差を仕様として明記している製品がほどんどですが、光フォノアンプの場合、RIAA偏差を公表しているブランドは私の知る限り上杉研究所だけです。これからは弊社も上杉研究所にならいRIAA偏差を公表していくこととしました。


もう一つの回路的な変更は増幅回路直近に配置した電流バッファを無帰還形レギュレータに変更したことです。従来は電源回路から電源電圧と基準電圧を供給し、それをベースにアンプに電圧を供給していましたが、Model1Bでは定電流回路とツェナーダイオードで基準電圧を生成し、それをトランジスタのベースに供給してエミッタから給電するシンプルな定電圧回路に変更しました。電源回路にはLEDで基準電圧を生成する無帰還レギュレータが搭載されていますので、Model1Bでは無帰還形レギュレータを二段重ねたデュアル無帰還レギュレータとなっています。これまでの回路でも十分な性能と音質は実現できていると思われましたが、二段重ねることでさらに静かな音を実現することができました。このあたりは試してみるしかないので、どこで折り合いをつけるのかが非常に重要な判断となります。


これらの回路変更および後記するBASS機能の追加と合わせて、メイン基板は完全新規設計となっています。


さて、次は電源ケーブルのお話です。


電源ケーブルで音質が大きく変化することは、もはやオーディオ界の常識と言って良いと思います。Model1においてもPSE認定されているケーブルを中心に何本も調達し、音質を確認しながら同梱するケーブルを決めました。メーカの立場としては同梱ケーブルと組み合わせた状態でPSE基準を満足するように仕上げますので、同梱ケーブル以外を組み合わせることを推奨することはできません。

それとは別に、例えば雑誌社や評論家に評価してもらう場合、基本的に同梱されているケーブルでみなさん試聴されます。つまり、同梱ケーブルで製品の音質が評価されるわけです。より好ましい音質のケーブルを組み合わせてくれるわけではありません。ゆえに、本来同梱されているケーブルとの組み合わせで音質的にも最善の効果がでるようなケーブルを選択する必要があります。まあ、当たり前ですよね。ただ、現実的にオーディオ業界を見渡すと様々な大人の事情があり、必ずしもそのようになっていないと感じます。


Model1B開発にあたり、あらためていろいろなACケーブルを再試聴しました。本体の音質が変化しているわけですから、組み合わせるACケーブルも再考するのは当然です。その中で圧倒的な音質パフォーマンスを示すケーブルがありました。

同梱の可能性のない手元にある数万円クラスのケーブルも試していますが、それを凌ぐほどなのです。もともと同梱していたケーブルに比べれば、比較にならないほど高価なケーブルでしたが、無理をすれば、なんとか同梱できる可能性がありました。結果的にはどうしてもコストの壁を越えることはできず、残念ながらそのケーブルは断念しました。しかし、同梱できる可能性のあるケーブルでも素晴らしいパフォーマンスが得られることがわかりました。ならば、そういうケーブルを同梱して、Model1Bをリリースしたい。


Model1Bは筐体内でアースをとっていませんので、ACケーブルは基本的には三芯ではなく二芯ケーブルのほうが合理的です。プラグもどのような家庭用100Vコンセントでも使えるように二極タイプの方が好ましい。そして、もちろんPSE準拠であることは必須です。


いろいろと試した結果、採用をあきらめたケーブルに勝るとも劣らない素晴らしいケーブルと出会うことができました。それがサエクコマース株式会社のPL-3800です。これは市販もされておりますので、ここで私がどうこう言う必要はございませんが、Model1BとPL-3800の組み合わせは申し分ないもので、どうしても最初からお客様にはこの音で楽しんでいただきたいと強く思いました。メーカーであるサエクコマース株式会社に購入の打診をしたところ販売のご快諾をいただき、晴れてModel1BにPL-3800を同梱することができました。この場をお借りして販売をご快諾下さった株式会社サエクコマースの北澤代表に感謝いたします。


商品説明ではPc-Triple C導体仕様のケーブルとだけ記載しておりますが、写真をみればSAECのロゴが確認できますよね?


こうして電源ケーブルも、さらにこだわりのある音質に特化したものを採用することができました。


最後は新しい機能であるBASSスイッチです。


従来、Model1にはサブソニックスイッチを装備していました。超低域のレベルを低下させるもので、Model1に搭載していたのは効果的にもミニマムのレベルのものでした。実際、製品にこのスイッチを装備したのですが、Model1オーナーの誰一人、この機能を使ってくれません(笑)

当初心配したウーファの揺れが通常状態でも非常に少なく、つまり使う必要がないのです。RIAA偏差を追い込んでいくと、さらにその傾向は高まり、どうもこの機能の存在理由が疑問に感じられたわけです。誰も使ってくれない機能を搭載していてもあまり意味はないか?そんな風に思い始めました。考えてみると昨今のMCやMM用のフォノイコライザーではサブソニックフィルターがついているものはあまりないことに気づきます。もちろん、MCやMMでは再生不可能な超低域まで光カートリッジは再生することができますので、MCやMMフォノイコに装備されてないからと言って、本当になくてよいのか?その危惧はありましたので、ユーザー宅にお伺いしたり、試聴室でも様々なレコードやスピーカで試しました。


結果、サブソニックフィルターは無くても良いと結論しました。ならばスイッチそのものも削除したほうがコストも下がるし配線の手間も省けます。ただ、フロントパネルのデザインがやや間抜けになり、使わないけど残そうかと葛藤の日々でした。そんなある時、比較的小型のスピーカで音を聴いていました。もちろん、良い音はするのですが、もう少し豊かさとか朗々とした感じがでると良いなと思ったわけです。そこで、超低域をわずかにブーストしてみました。これが、非常に良い感じに音を変化させてくれることに気づきました。さらに小型スピーカだけではなく、もともと低域再生の苦手な大型のビンテージスピーカなどと組み合わせても好結果がでることがわかりました。


こうして、土壇場でModel1BにはフラットRIAAイコライジングを基本として、スイッチ切替で低域再生が変化するBASSスイッチを採用しました。過渡なブーストをしてもろくなことになりませんので変化はミニマムなレベルに抑えています。組み合わせるスピーカ、再生環境、また、単純に低域の特性だけにとどまらない音楽的な再現性の変化など、総合的に判断いただき使い分けていただければと思います。









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