Model2の基本回路はDVASのアイコンでもある完全差動アンプです。DVASで、もっともはやく回路開発を行ったのはModel1ではなくModel2です。したがって、完全差動アンプもModel2のために採用を決めた回路であり、Model1はそれを展開したものです。
Model1ではアンバランス入力である光フォノアンプの性質上、入力から出力までバランス増幅という形にはなりませんが、Model2はシンプルなパワーアンプですので入力から出力までバランス増幅とできます。
ヘッドホンを駆動するアンプはかつてはアンバランスばかりで、バランス駆動という製品は皆無でした。まあ、スピーカを鳴らすアンプも、その多くはアンバランスであり完全バランスのアンプは最近でこそ多くなってきましたが、主流というわけではありません。
単純に電子式バランスアンプはアンバランスに比べてアンプの数が二倍になりますので、それによる音質の劣化を指摘する人もいます。出力トランスを使えばアンプの数は一つでも大丈夫ですが、今度はトランスの質が問題になってくる。メリットとデメリットは相反することも多いので、何を重視するかで選択は変わると思います。
私はHE5seを使うようになり、あるバランス出力アンプを導入。このアンプはアンバランス出力もあったので、端子だけが異なる同一のケーブルでアンバランス、バランス出力の違いをヒアリングでじっくりと確認しました。このアンプは非常によくできたアンプであり、バランスでもアンバランスでも優れた音質を聴かせてくれましたが、ダイナミックな表現力でバランス接続の方が優れると感じられました。同一アンプ内でバランスとアンバランスを比較した場合、一般にアンバランスの方が高域特性は良くなりますので、透明感とか繊細感はアンバランスが優れることが多いですが、このアンプはそういう点においてもバランス接続がアンバランスに引けをとることがありませんでした。なるほど、うまく作ればメリットを強調できると考えModel2の出力はバランス出力とすることを決めたのです。
次に、バランス入力、バランス出力をどのような回路で構成するか、ここを決める必要があります。選択肢は二つ。ネガティブ、ポジティブで完全に独立した二つのアンプ(デュアルアンプ方式)を使うか、完全差動アンプとするかです。デュアルアンプ方式の場合、アンプ回路そのものは自由に選択することが可能です。差動アンプでも上下対象アンプでもかまわない。それゆえの回路の自由度は高くなりますが、基本的にそれらのアンプは勝手に動きます。完全差動アンプの場合、アンプは差動アンプに限定されますが、それぞれのアンプは逆のアンプ出力から帰還をかけますので、相互に関連した動作となり、アンプの直流動作点は一義的に決定できるメリットがあります。また、デュアルアンプ方式の場合は、二つの入力段が存在することになりますが、完全差動アンプは入力段は一つです。このあたりにも完全差動アンプで構成するバランス増幅アンプの音質上のメリットがあるように思います。
以上を加味し、Model2は完全差動アンプによるバランス増幅を採用しました。
機能試作時点ではディスクリートで完全差動アンプを構成しました。もちろん非常に優れた音質が得られましたが、それは二年くらい前のこと。その後、無帰還アンプに興味がわいてきたのは少し前にブログに書いたとおりです。
ただ、完全差動アンプで無帰還アンプを組むのは原理的に無理があることがわかります。完全差動アンプはオーバーオール負帰還をかけることで成立しますので本質的にオーバーオール無帰還アンプをつくることができません。
さてどうしよう?プリアンプならお手上げですが、パワーアンプは基本的に電圧増幅段と電流増幅段に分かれていることが通例です。であれば、電圧増幅段は完全差動アンプによる負帰還アンプとして構成し、これに局所帰還をかけた電流増幅段を組み合わせることでオーバーオールの負帰還を排した無帰還アンプを構成することができます。まあ、電圧増幅段が高帰還アンプですから胸を張って無帰還アンプ!というのは憚られますが(笑)
出来上がったアンプを測定してびっくりしました。覚悟はしていましたが歪がめちゃくちゃ大きい!ディスクリートの完全差動アンプの歪は0.0数%ですが、オーバーオール無帰還アンプは0.1%を軽く越えます。しかも、二次歪、三次歪はもちろん、高次高調波まできれいに乗っている。。。電流増幅段のみを帰還ループから除外しただけで、これほど歪むのかとあらためて実感しました。
回路もデバイスも全く違うアンプ同士を比較することにあまり意味はないかもしれませんが、とにかく従来の高帰還完全差動アンプと新しい無帰還アンプで音質を比べてみました。
音を聴いてびっくり。
あれほど静的な歪性能が悪い無帰還アンプですが、どう聴いても歪んでいるようには聴こえません。それどころか、音楽の抑揚が一層付くように感じられ音が開放的になる。ヘッドホンといえども逆起電力は発生するでしょうから、これがその影響を入力にもどさないメリットなのか?ほんとのところはわかりませんが、静特性が悪いにもかかわらず音はむしろ良いように感じられました。静特性が悪いと言っても、それは歪だけの話で周波数特性は広大だし、ノイズも全く問題ありません。人は0.1%の歪を検知することはできないとは、昔からよく言われていたことですが、実際に試してみると、ああ、これは事実なんだなと感じた。
この音を聴いてしまうと後戻りできません。
かくしてModel2の増幅回路は完全差動電圧増幅+PPエミッタフォロワによる電流増幅&オーバーオール帰還なしという構成になりました。
画像はModel2の増幅基板です。無帰還の定電圧回路も内蔵していますので、相変わらず青く光っています(笑)
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