Model1の中身は、これまでお話してきたようにアンプ部と、たくさんのトランスと整流回路、そして複数のレギュレータと制御回路で構成されています。それらがいくつかのブロックでまとまっており、電気を流したり、信号を流したりするには必ず電線で相互のブロックを接続しなくてはなりません。真空管アンプの時代は、ほとんど手配線でやっていたと思いますし、世界最初のハイエンドアンプと私が考えているマークレビンソンのLNP2も、内部は完全に手配線でした。昨今のハイエンドアンプの中身を眺めてみると、完全手配線というアンプは少なく、多かれ少なかれコネクターを使用して簡単に各ブロックを組み立てたり、ばらしたりできるようになっています。
私がメーカーで開発をしていたときにも、もちろんコネクターを使って、各ブロックを接続していました。これは生産効率をあげるだけではなく、接続によるミスを減らすためにも非常に有効な手段であり、保守性にも優れています。
同じプリアンプでも私が長年愛用していたマッキントッシュC34Vなどはすべての基板ブロックがコネクターで接続されており、メンテナンス性は抜群に高かったです。一方で、コネクターによる音質劣化を問題視する声もあります。音質以前の問題で、経時劣化によりコネクターが接触不良を発生し、ノイズが出たり、音が出なくなったりというトラブルも多く経験しています。
信頼性という面では多くの接点を抱えることになるコネクター接続方式ははんだ付けによる手配線よりは劣ると思います。その代わり、確実な組み立てと、いざというときのメンテナンス性は手配線よりも優れている。これらは相反することがらであり、両立させることは簡単なことではありません。
大量生産の場合と少量生産の場合でも、まったく選択は異なるでしょう。
Model1は、それらを秤にかけてコネクターを使う方法を選択しました。誤配線の撲滅と保守性の確保を優先したわけです。実際、最初に書いた回路図やパターン図には、ちゃんとコネクターを使っています。
ところが、、、コネクターがないのです。
コロナ禍により電子部品が枯渇してきているという話を、みなさんも聞いたことがあると思います。
DVASも部品選定にあたっては、そういう枯渇の影響を受けないであろう、大量に在庫のある汎用品の中から、優れたものを選択してきました。2月になり、Model1に使う部品選定をしているときに、びっくりしたことがあります。コネクターが市場にないのです。もちろん、すべてが無いわけではありませんが、使おうと思っていた日本圧着端子製のコネクターがことごとくない。よもやよもやです。よりによってコネクターが手に入らないなど、考えたこともありませんでした。このとき、自分が思っている以上に電子部品の枯渇は深刻な状況で、今現在、その状況はますます悪くなっています。
日本圧着端子のコピーとしか思えない中国製のコネクターであれば、入手することは可能です。しかし、それこそ、信頼性の面でこの重要な機能を任せられる確信が持てませんでした。
どうしよう?このままでは製品を開発することができない!Model1はブロック数が多いので、接続すべき接点はアンプ全体で80か所近くあります。これにはホトホト困りました。
こういう時には発想の逆転です。コネクターが手に入らないなら、使わなければ良いではないか!と。コネクターを使うメリットは誤配線の防止と、保守性の確保です。でも、これはきちんとした作業指示書を作成し、複数確認を実施するなどの方法で対応することができます。保守性も構造を吟味すれば、なんとかなるでしょうし、そもそも故障しにくいアンプを作ればよいわけです。
大量に存在する接続箇所ではありますが、製造する台数はたかが知れており、何百、何千とあるわけではありません。一日に一台組むことできれば十分であり、作業のための時間を合理化して、工数を減らす必要性も、少数生産の場合ならば、それほど考慮する必要はありません。そして、これは福音ですが、すべての接続をハンダ付けすることで、接点は確実に減り、音質の向上を見込めます。
ということで、Model1の機内配線はすべて手作業によるハンダ付けと相成りました。。。
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