アンプを設計しようと考えたとき、通常はまずどんな回路にするかを考えます。
もちろん、設計しようと思っているのがどんなジャンルのアンプなのかがありきなんですが。
Model1は光フォノアンプというジャンルですので、DSオーディオのホームページに公開されている以上の回路情報は事実上ネット探しても雑誌を見ても公開されてはいません。多分、自作記事などもないと思います。その意味ではゼロから構築していくことができます。
MC型に比べれば大きいといえる数十mVの入力電圧ではありますが、基本的にカートリッジが生成するのは電圧ではなく電流であり、アンプ側でIV変換するという点ではフォノイコライザーというよりは電流出力型DAコンバータのIV変換回路に近いといえます。
私はメーカーに在籍していた時に、DVD/BDレコーダ、プレーヤに様々なDAコンバータを使ってきました。高級モデルではほとんど電流出力型のデバイスを使っており、多くのIV変換回路を設計してきました。Model1の設計では、そのときの経験を活かし、光カートリッジの電流を直接OPアンプで受けてIV変換する回路なども考えていました。しかし、DC電流が針圧によって変化するという光カートリッジの特殊な動作のため、簡単には実現できませんでした。
結局、シンプルな抵抗によるIV変換方式がリーズナブルな解であるとわかります。Model1で使っているネイキッド金属箔抵抗はオーディオ用高級OPアンプよりもさらに高額なデバイスであり、シンプルではありますがローコストな解ではありませんでしたが。。。
回路設計を考えるとき、私が優先していることはシンプルであることです。信号経路に入るデバイスは極力少なくして信号の純度を保つこと、そして、それらを小さな面積に収め適切なシールドで覆います。結果、アンプ基板は大きなものにはなりません。これは経験則としか言いようがないのですが、表面実装型パーツを多用し全体の回路規模を小さくまとめたアンプの方が、大きなものよりも音が良いように感じてきました。だからDVASの信号増幅部分(いわゆるアンプ部)は基本的に小型・高密度設計をこころがけています。ただ、小さければ良いというわけでもないのが説明のしにくいところです。
そういう用途には、やはり優れたOPアンプを使うことがとても有効です。OPアンプの中には多数の半導体や抵抗などがあるので、信号経路のデバイス数がディスクリートに比べて少ないかというと、そうでもないのですが。。。OPアンプというとディスクリートに比べて音が悪いといわれことも多いようですが、世の中にはOPアンプを使いながら、優れた音質を実現しているハイエンド機器もたくさんあります。私自身はどちらに対しても否定的な気持ちは全くなく、ケースバイケースで使い分ければ良いと思っています。基本的な性能や機能の確認には回路シミュレータを使います。OPアンプを使うメリットは回路シミュレータ用の解析モデルが多数存在することで、実際に回路を組まなくても、どれほどの性能のアンプになるのか、ほとんどのことがわかってしまいます。Model1の設計でも、回路シミュレータは大活躍してくれました。CR-NF形イコライザーの定数や回路構成はどういう形が好ましいのか?それによって実現できる周波数特性や位相特性などが瞬時にわかってしまいます。実際の回路を組んで、性能を測ってなんて時代ではないのですね。ここで徹底的に特性を追い込んでから試作をつくり、そこで不具合がないかどうかの確認をします。理想OPアンプではなく、実際に存在するデバイスでのシミュレーションを行うことで、シミュレーション結果と実測結果がほとんど同じ回路ができます。試作の段階では音の詰めは一切やりません。ユニバーサル基板にディスクリートパーツで組んだ試作の段階で音を詰めても、量産では基板もパターン化するし、抵抗やコンデンサは表面実装型になりますので、試作での音質確認はあまり意味がないのです。
ただ、試作の状態でもSN比や歪などの性能はシミュレーションではわかりかねる部分がおおく、ここで、そういうパラメータの測定をおこない期待した性能が実現できているかどうかを確認します。DVASではそのためにオーディオプレシジョンのオーディオアナライザを使っています。かつては多くの測定器メーカーがオーディオアナライザをリリースしていたのですが、現在はほとんどのメーカーがオーディオアナライザをやめてしまいました。ゆえにオーディオプレシジョン一択といってもよい状況です。DVD/BD製品の測定にはオーディオプレシジョンのアナライザが必須であり、私もSYSTEM2がリリースされてすぐに会社でそれを導入し、ずっと使い続けてきました。最新のAPxシリーズはかつてのSYS2722などから大きく進化しており、一つの画面内で同時に複数の測定値の確認ができてしまいます。静特性が優れていることは当然好ましいのですが、しかし、静特性を改善するために回路規模の増大を招くことは潔しとしていません。部分を追いかけすぎると全体のバランスを見失うと考えており、このあたりは装置のチューニングにも似ていると思います。
徹底したシミュレーションを実施し、高性能な計測機器を用いた静特性の把握。この両者を併用することでDVASは回路設計を実施しています。ここまででわかるのは、ちゃんとした回路かどうか?という部分であり、ここから先の音質はどうか?という部分については、また、別の機会に。。。
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